非常識な黒字化の方法

企業の◯割が赤字?

日本企業の赤字の割合は、どのくらいだと思いますか?

国税庁が公表している「国税庁統計法人税表」という統計からそのことがわかります。
2019年度の赤字法人(欠損法人)は181万2332社、全国の普通法人276万7336社のうち、赤字法人率は65.4%で、前年度(66.1%)より0.7ポイント改善していますが、7割弱の会社が赤字というのが現状です。

引用:国税庁統計法人税表(2019年度)

※赤字法人率は、普通法人を対象に赤字(欠損)法人数÷普通申告法人数×100で算出
※普通法人は、会社等(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社、協業組合、特定目的会社、相互会社)、企業組合、医療法人などを含む。

 

これまでの推移を見ると、リーマン・ショック後の2010年度に75.7%まで悪化しましたが、その後は改善に向かっていました。
しかし、今回の新型コロナにより、まだ公表されていない2020年度の数字は深刻な影響を受けていると想像されます。

中小企業は、日本全体の企業数の99.7%を占めており、我が国企業の圧倒的多数です。
そして、従業者数全体に占める中小企業の割合も70%と非常に高く、雇用創出においても中小企業が大きな役割を担っています。
その中小企業の7割弱が赤字というのが実態です。それも一時的ではなく、慢性的な赤字。

このことは、一体、何を意味するのでしょうか?

 

なぜ赤字だとまずいのか?

そもそも、なぜ赤字だとまずいのでしょうか?

一番の理由は、社員に給料や賞与が払えなくなり、雇用を守れなくなるからです。
雇用不安のある会社にいい人材は集まらず、事業を存続させることはできません。
企業にとって、最も大切な経営資源である人材の確保。それが困難になるのです。

また、赤字になると、仕入先にも代金を払えなくなります。
この状態が続くと、信用を失って取引が継続できなくなり、自社のモノやサービスを提供することができなくなります。

さらに、借入金の返済もできなくなります。
借入金の返済ができなくなると、金融機関の格付けが下がって新たな借入が難しくなり、新たな投資ができなくなります。
何とか借入できたとしても、高い利息を払わなければなりません。

これらの状況が重なって事業はさらに悪化、一層利益を出すことが難しくなり、慢性的な赤字体質になってしまうという悪循環に陥ります。
その先に待っているのは・・・最悪、倒産です。

確かに、会社を経営していると赤字になることもあります。
しかし、連続赤字、慢性赤字は絶対に避けなければならないのです。

 

一般的な赤字の原因

赤字になるとは、一体どういうことでしょうか?

収益―費用=マイナスになること、つまり、収益<費用になることです。

 

このことから、赤字の原因は一般的には2つ挙げられます。
ひとつは、収益が不足する、つまり売上が少ないことが原因。
ひとつは、費用が大きい、つまり原価や経費がかかりすぎることが原因。
当然、そこから導かれる対策は、「入るを計って、出ずるを制す」。
売上をアップするか、コストをダウンするかの2パターンだけです。
そして、多くの場合、売上をアップすることが難しく、経費削減、コストダウンを中心に黒字化を図ろうとします。
しかし、実は、ここに大きな落とし穴があります。

 

間違った常識

「経費削減で黒字にする」

確かに、「収益―費用」の計算式からは、これは正しい方法のように思えます。
しかし、あくまでも机上の“計算”でのこと。実際の経営では、これは正しくありません。
場合によっては、事態をさらに悪化させることにもなりかねません。
どういうことかというと、実際の経営では、経費を削減すると、それ以上に売上がダウンしてしまうことが起こる場合があります。
そう、実際の経営では経費は経費、売上は売上と切り分けることはできず、すべてがつながっているのです。
一時点の、静止した状態(静態的)での計算式の通りにはいかず、常に連動して時間差的に数字が変動(動態的)しているのです。

また、それぞれの会社の収益構造によっても、状況が変わります。
製造業、卸売業、小売業、サービス業といった業種での違いや、個々の会社のビジネスモデルの違いによって、状況が変わります。
そのため、何から着手すべきか?優先順位も違ってきます。

このように、一般的に正しいと言われている常識、その考え方で実行することは、実は間違った方法であり、事態をさらに悪化させかねないのです。

 

費用の見方を変える

それでは、どういう考え方をすれば良いのか?

その大前提として、まずは費用の見方を変えなければなりません。
費用の中身をよくよく見てみると、実は、売上の動きに対して水と油のように全く違う動き方をすることがわかります。
ひとつは売上に比例して発生する費用、ひとつは売上に関係なく発生する費用。この数学的性質の違いを理解しなければなりません。

売上に比例して発生する費用のことを変動費といいます。代表的なものは、原材料費です。
また、売上に関係なく発生する費用を固定費といいます。固定費は、人・もの・金にかかるもの、「総費用―変動費」と考えてよいです。
そして、赤字とは、実は、「この固定費を回収しきれていないこと」を意味します。
どういうことか?会計を図形で考えるとよりわかりやすいです。

 

会計を図形で考える

この図を見てください。商売のプロセスを図式化したものです。

価格Pがあって、それにかかる変動費Vがあって、PからVを引いたものが儲けMになります。
これに販売した数量Qを掛け合わせると売上高P Q、変動費総額V Q、限界利益総額M Qが求められます。そして、ここからが大事なのですが、M Qを積み上げていって、固定費FをM Qが越えた時に初めて経常利益Gが生まれるのです。
そう、赤字とは、M Q<Fが正しい理解なのです。先ほど述べた「赤字とは、固定費を回収しきれていないこと」の意味がわかっていただけたと思います。

経営とは、この5つの要素(P、V、Q、F、G)が自在に動いて、利益Gの最大化を目指すことなのです。大企業でも中小企業でも、製造業でもサービス業でも、この5つの要素は変わりません。その比率が違うだけなのです。

それでは、業種ごとにその特徴を見ていきましょう。

 

固定費型?変動費型?

一般的に、限界利益率(M Q/P Q)の高い業種で総費用に占める固定費の比率が大きいものを固定費型産業と言います。バーやナイトクラブ、理美容などのサービス業がこれに当たります。
反対に、限界利益率が低く、総費用に占める変動費の比率の高い業種を変動費型産業と言います。小売業が典型です。
そして、その中間が製造業になります。

固定費型産業は、売上が損益分岐点を越えないと、損失は大きくなります。しかし、一度損益分岐点を越えると、利益は増加し、そのテンポも非常に大きくなるという特徴があります。
変動費型産業は、売上が損益分岐点を越えなくても損失は小さく、その分、損益分岐点を越えた後も利益増加のテンポは小さいという特徴があります。
このように、業種によって収益の構造は大きく異なります。

この構造を理解すると、「うちは何をしなければならないのか?」経営戦略の展開方法や改善の着眼点も、自ずと変わってくるのです。

 

利益感度分析で優先順位を計算する

同じ会社経営でも、固定費型、中間型、変動費型それぞれで収益の構造が違い、特徴も変わることを理解していただけたと思います。

それでは、赤字対策として、具体的にどうすればよいのか?これについて、お話していきます。
利益感度分析というものがあります。この分析がとても有効です。

利益感度分析とは何か?

利益の増減に関係のある要素のうち、1つまたは複数の要素を変化させた時、その変化が利益の増減に対して、どの程度の影響を与えるのか?を事前に確かめる分析です。
簡単に言うと、「赤字から脱却するために、どの部分から着手するのが一番効果的か?」を見極めるための手法です。

利益の増減に関係のある要素とは、一体何か?

それは、先ほどご紹介した図形の中にあります。
販売単価P、変動単価V 、販売数量Q、固定費Fの4つです。
これに、目的である利益Gを加えた5要素で会社は成り立っています。
これは、大企業だろうが、中小企業や小規模企業だろうが、同じ。製造業だろうが、小売業だろうが、サービス業だろうが同じなのです。

そして、次の計算式で、定量的に感度を算出できます。

P感度=利益G /売上高PQ
V感度=利益G /変動費VQ
Q感度=利益G /限界利益総額MQ
F感度=利益G /固定費F

値が小さければ小さいほど、利益Gに対して感度が高い=改善効果が高いことを意味します。
値の小さい順に並べ替えれば、自社の利益感度がわかり、利益アップ改善の優先順位を決めることができます。
利益感度が高いということは、敏感に反応するということで、少しの変化で利益が大きく動くことを意味します。

事例 製造業の利益感度

ここで、製造業の利益感度分析をしてみたいと思います。
中小企業の製造業の場合、PQに占めるMQの比率が概ね30〜60%なので、
仮に45%として、下記のような状態の時の利益感度を計算してみると、次のようになります。

P感度:▲5%
V感度:▲9%
Q感度:▲11%
F感度:▲10%

この計算結果から、利益感度が高い順に並べると、①P、②V、③F、④Qとなります。
この会社では、何といっても価格の見直し(Pアップ)をしなければなりません。
続けて、材料費の見直し、ロスの低減等(Vダウン)を行うと、赤字脱却の近道であることがわかります。
そうとは知らず、経費削減(Fダウン)と、値下げして数量ばかり追いかけていく(Qアップ)ことをしていたら・・・赤字脱却どころか、さらに赤字幅を拡大してしまう恐れもあります。

 

あとは行動あるのみ!!

優先順位が決まったら、あとは行動あるのみです。
得意先や仕入先、社内を巻き込んで、活動を行っていきます。
利益感度分析により、どの部分に焦点を絞って、人、物、金の経営資源を集中投入するか、改善するか?科学的に、数学的に導くことができるのです。
計算してみるとわかることがあります。それは、これまでの企業再建策である「経費削減」がいかに科学的ではなく、だから再建が思い通りに進まなかったということが・・・。

ぜひ利益感度分析を活用して、効果の大きいものから実行し、一刻も早く赤字から脱却しましょう!!

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