長年、中小企業の経営支援をしているうちに、業績が厳しい企業のある重大な共通点に気がつきました。
それは、「どんな事業でも成功のカギは、自らの経営に携わる確固たる意思にある」ということです。
しかし、実際の現場では、経営というものを、本社の経理スタッフが伝票を処理するようなイメージで捉えていることが多いようです。
会社の経営は、会社の業務とは全く次元が違います。そのため、特別な仕組みが別に必要になります。会社が窮地に陥ったり、倒産に至るのは、経営の仕組みづくりを怠ったためなのです。
経営の意思、経営の仕組みとは、一体何なのでしょうか?
経営とは?
そもそも経営とは、何でしょうか?
ある本には、「経営とは組織の目標を定め、人材をはじめとする資源をその目標達成へと導いていくこと」と書かれています。
その場その場で状況変化へ対応し、臨機応変に運営してうまくいくこともあるかもしれません。
しかし、上記の定義のように、意思を持って企業を運営することが重要です。
事業を成り行きのままに任せるのではなく、会社の成長を自らの手で設計しようとする意思。自分たちの事業の舵取りをする意思。「意思あるところ道あり」。これこそ会社を経営する意思に他なりません。
日々の仕事と経営の仕事
事業を経営することと日々の業務上の判断を下すことは、まったく別物です。
役割や地位が上がるにつれて、経営の仕組みを整え改善することが次第に重要な任務となり、それに充てる時間割合が高まっていかなければなりません。
しかし、多くは、日々発生する問題の処理に追われ、自分から問題に取り組む時間がほとんどないため、全社的な経営に目が向かないのが実態です。
経営者は、経営の仕組みを組み立て、定着させ、改善する責任があります。
日々の業務に没頭しているだけでは、責務を果たしたとは言えません。
こうした日常業務的な仕事も大切ですが、そのせいで、経営者がすべきもう一つの大事な仕事、「経営」が侵食され、押しのけられてしまいます。
この現状に気づき、経営に携わる意思を持った経営者だけが、時間やエネルギーや知恵を注いで経営の意思を貫こうとし、より良い経営の道を見つけられるのです。
事業を経営するとは、単に優れた業務上の決定を積み上げて金銭的な結果を出すことではありません。
社員全員が会社の目標達成に貢献し成果を実現できるような仕組みをつくることなのです。
経営システム
経営の意思あるところには、経営の道が開けていきます。
そして、経営の意思を行動に反映させる最善の方法は、組織的、体系的なシステムです。
それは1+1が3にも4にもなっていくものです。
システムとして経営が行われている会社では、さまざまな経営プロセスが一つの目的に向かって働いていきます。
思いつきで下される決定の数は非常に少なくなり、ある決定が他の決定を支え、また支えられもするといった具合に、ひとつひとつの決定や行動が目標達成により良く貢献するようになります。
経営に「計画性」が加わるのです。
このように、経営の意思と経営システムは、車の両輪のごとく働いて成功の可能性を高めます。
経営の意思はシステムを整える決意につながり、システムは意思を具体的な行動に変え、行動は意思をいっそう強めていきます。
経営の意思を阻害するもの
計画性に欠ける経営には、2つの大きな欠点があります。
第一は、経営プロセスがはっきり決まっていないことです。
意思決定や行動指針となるべきものが存在しないので、場当たり的で、社員に一貫性のある行動は期待できません。
第二は、あるプロセスと別のプロセスとの「つながり」が理解されていないことです。
ある方針なり組織なりの変更を検討する時に、会社の目標達成に役立つのかどうかが考慮されていない。
変更の理由がきちんと社員に説明されていない。その変更が他に影響を及ぼすことがわかっているのに十分に検討されていないといったことが頻繁に起こります。
計画性のない経営は、首尾一貫せず、場当たり的で感情に左右されやすい。部分最適に陥りやすい。
一方、計画的に経営されている会社には、揺るぎない価値観が浸透しています。
従来からある経営プロセスを体系化して、自分の会社に適した規律ある経営システムを作らなければなりません。
「システム」というと規則でがんじがらめにするように聞こえるかもしれません。
しかし、実際にはまったく逆です。システムがあればこそ、社員は自分の判断で活き活きと仕事ができるようになり、自ら方向を決め自ら舵取りする自主管理が進みます。
そして、社員の自らの取り組みこそ、経営システムにとって最も望ましいエネルギー源なのです。
適切に構築された経営システムの下では、経営幹部は自ずと方法より目標の達成度を、手続きより業績を、規則遵守より結果を重視します。
すると会社は、事業環境や将来の変化に対応しやすい体質になります。健全な経営システムは企業に活気を吹き込み、官僚主義的な息苦しさを吹き飛ばす働きをします。
よくできた経営システムは時の試練に耐えるものであり、同時に変化も厭わない。この柔軟な適応能力は貴重な経営資源となります。
また健全な経営システムは、構造がシンプルで運用しやすい。
経営そのものが競争力の源泉、資産にもなり、企業価値を高めていきます。
経営の14プロセス
あらゆる行動には、プロセスがあります。
経営プロセスとは、集団や組織の行動を効率よく行うための方法を意味します。
そして、あらゆるビジネスの経営プロセスは、ある一つの共通要素を中心に組み立てられています。
それは、「人」です。計画し、決定し、行動するのは、「人」です。そうであるならば、社員が何をどうすべきか決める助けとなるのが、経営システムの本来の姿です。
どんな業種、どんな規模の会社も、次の14プロセスから経営システムを組み立てることができます。
- 経営理念を打ち出す
- 経営目標を設定する
- 中間目標を設定する
- 戦略を立案する
- 行動方針を定める
- 基準を設定する
- 手順を定める
- 組織計画を立てる
- 人材を配置する
- 事業計画・業務計画を練る
- 施設設備を用意する
- 資金を手配する
- 社員に情報を提供する
- 社員に行動を促す
この14のプロセスを自社に合わせた経営システムとしてまとめ上げるのが、経営者の仕事です。
そして、経営システムを浸透させ、守り、守らせるのは業務面の仕事です。
上は社長から下は現場主任まであらゆるリーダーが実行しなければなりません。これが経営の基本です。
事業の成功を測る3つの物差し
経営システムの確立は、事業を成功に導く助けとなります。
その事業の成功は、次の3つの基準で測ります。
- 売上高とシェアの拡大(競争優位を測る物差し)
- 長期的な投資利益率(収益性を測る物差し)
- 経営の継続性(経営人材の育成、輩出を測る物差し)
事業の成功を測る物差しは他にもあります。
しかし、売上高とシェアを増やし、長期的な投資利益率を高め、優秀な経営幹部が次々に出てくる会社は、自ずと他の基準もクリアすることになります。この3つの物差しで十分なのです。
計画性のある経営は、変化の激しい環境で成功を目指すのに適した方法です。
計画的と言っても硬直的ではありません。
計画的だからこそ、弾力性に富んでいるのです。経営システムが機能している会社は、社員は創意工夫と熱意を持って最大限の努力をする、そのような環境が作れるのです。
まとめ
- どんな事業でも成功のカギは、自らの経営に携わる確固たる意思にある
- 事業を成り行きのままに任せるのではなく、会社の成長を自らの手で設計しようとする意思、自分たちの事業の舵取りをする意思が大切である
- 事業を経営することと日々の業務上の判断を下すことは、まったく別物。経営者は、経営の仕組みを組み立て、定着させ、改善する責任がある
- 経営の意思と経営システムは、車の両輪のごとく働いて成功の可能性を高める
- 経営システムは、「人」を中心に、社員が何をどうすべきか決める助けとなるのが、本来の姿である
- 経営の14のプロセスと3つの物差し
- 弾力性に富んだ、計画性のある経営を目指す