「当社の経営課題は、生産性だ」
「生産性向上の取り組みが足りない」
「社員の生産性に対する意識が低い」
よく耳にするフレーズです。
このように、日常、何気なく使っている「生産性」という言葉ですが、正しく理解できていますか?
実は、間違って理解して、生産性を高めるはずと思って行ったことが逆に生産性を低下させてしまっている。
こんな恐ろしい状況が多く発生していることをご存知でしょうか?
真の生産性を正しく理解しなければ、一生懸命に取り組んでも徒労に、場合によっては弊害にさえなることもあります。
真の生産性とは何か?どう取り組むべきなのか?
生産性とは?言葉の定義
まずは、「生産性」という言葉の定義を正しく理解する必要があります。
会社が持っている資源、ヒト、モノ、カネは有限です。
この有限な資源を、どのように有効に使うかということが、経営者の重要な意思決定、経営戦略のひとつです。
そのため、経営者は、自社の資源が本当に有効に利用されているか?を常にチェックしなければなりません。
その手段が、生産性の測定です。
生産性とは、何か?
生産性とは、「投入に対する産出の割合」「成果に対する費用の割合」のことです。
式で表すと、
生産性=産出高( アウトプット)÷投入高(インプット)
です。
自動車で例えると、一定量の燃料を使って(投入高)、どのくらい走れるか(産出高)、燃費に似ています。
会社の場合には、産出高とは成果であり、投入高とは費用を意味します。
成果(産出高)
成果とは、すなわち会社の生み出した“経済的価値”のことです。
製造業の場合には、「付加価値」、「限界利益」、「加工高」などと言われているものであり、流通業では「粗利益」と言われているものです。
売上は成果ではない!
ここで大事なことは、売上は成果ではないということです。
売上は、その会社で生み出した経済的価値ではありません。
なぜならば、その中には材料費や外注費などの外部でつくられた経済的価値が含まれているからです。
だから、自社の生み出した経済的価値を知るためには、外部でつくられた価値を引かなければなりません。
製造業の場合、経済的価値=売上高-(材料費+外注費)となります。
費用(投入高)
この成果を生み出す出すために、会社はいろいろな費用を投入します。それは、人件費であり経費です。
また、費用ではありませんが、成果を生むために投入される設備や在庫などもあります。
そこで、これらの費用や活動がどのように有効に使われているかを、前述の算式に当てはめて、判定をしていきます。
生産性の判断基準
計算の結果、数字が大きいほど、生産性が高いことになります。分母(費用)が小さく、分子(成果)が大きいほど、数字は大きくなるからです。
ただし、ここでも注意が必要です。単に絶対値で判断してはいけません。
重要なことは、あくまでも“傾向”を見る。少なくとも3年にわたって数字がどのように推移しているかを見なければなりません。
数字が上昇傾向であれば、たとえ絶対値が小さくとも改善が進んでいるということ。
心配はいりません。反対に、絶対値は大きくても傾向が下降であればこちらの方が問題です。
このまま進んでいったらますます悪化することを意味しているからです。
様々な生産性指標
では、どんな生産性を見ていったらいいのでしょうか?
ここでは、中小企業経営として、経営者が押さえておくべき生産性指標を解説します。
会社全体の生産性
まず見なくてはならないのは、会社全体の生産性の傾向です。
会社全体の生産性=総付加価値÷総費用
※総費用=総付加価値−経常利益
これが3年間でどう推移しているかを把握します。
これが上昇傾向であれば、会社全体として現在の方針、方向性が間違っていないということであり、下降傾向であれば、方針、方向性を転換しなければならないということを意味しています。
労働生産性
次に、原因分析です。
どの部分に問題があるのかをつかんで、手を打たなければなりません。
代表的なものが労働生産性です。
どれだけの人員を投入して付加価値を生み出しているのか?社員1人が生み出す付加価値のことです。
労働生産性=総付加価値÷総人員数
この数字がうまくいっているのかどうかを簡単に判定する目安があります。
一般的にそれが「3」倍以上であれば黒字、それ未満であれば低収益、最悪赤字と考えてください。
よく言われる「人件費の3倍以上稼げ!」です。
人件費の3倍以上の付加価値がなければ、事業として成り立たないということです。
さらに、社内の生産性の状態を知るために、分母、つまり成果を生むために投入されたいろいろな活動項目の数字に入れ替えることで、分析が深まっていきます。
例えば、部門別に
製造生産性=総付加価値÷製造部門の人員数
営業生産性=総付加価値÷営業部門の人員数
間接生産性=総付加価値÷間接部門の人員数
というように、測りたい生産性を分母の投入に持っていきます。
部門別生産性
また、分子の成果、分母の費用を部門ごとに分けると「部門別生産性」も算出でき、部門ごとに生産性を比較することができます。
部門別生産性=部門付加価値÷部門人件費
その他の生産性指標
「人員数」に関する生産性だけでなく、次のようなものも考えられます。
賃金生産性=総付加価値÷賃金
これは測ることで、賃金の上昇と生産性向上のバランスを知ることができます。
設備や在庫など、「投資」に関する代表的な生産性指標もあります。
固定資産生産性=総付加価値÷固定資産(設備)
棚卸資産生産性=総付加価値÷棚卸資産(在庫)
人時生産性
分母を「時間」にすると、社員が1時間働いてどのくらいの付加価値を生み出しているのか?人時生産性が求められます。
付加価値を生み出すスピードです。
人時生産性=総付加価値÷総労働時間
労働分配率
さらに、生産性指標の応用として、重要な2つの指標も見ておきましょう。
1つは、労働分配率です。
労働分配率=労務費÷総付加価値
これは、付加価値に占める労務費の割合、付加価値の何パーセントを社員の給料に分配しているのか?を表した数字です。
労働集約型の生産を行う企業では高くなり、設備集約型の生産を行う企業では低くなります。
労働分配率が高くなると、利益が圧迫され経営が苦しくなる恐れがあります。
これを改善するためには、付加価値総額を増やす努力を続け、その伸びの中で人件費の上昇とバランスを取っていくという考えが重要となります。
また、人事生産性、労働分配率、時給には、次式のような深い関係があります。
時給=人時生産性×労働分配率
=(総付加価値÷総労働時間)×(労務費÷総付加価値)
=労務費÷総労働時間
労働装備率
設備投資をしていかによい設備を持っているかが、高品質、生産性向上の重要なポイントとなります。
労働装備率とは、社員1人がどのくらい設備を持っているのかを計算し、その会社の技術水準を測る指標です。
労働装備率=有形固定資産÷人員数
労働装備率が高いと、品質が良い製品を短期間に作ることができるので、製品の付加価値が上がり、その結果、労働生産性も上がります。
ただし、最近は、リース設備が多くなっています。リースの支払いは経費になるため労働装備率には影響しないので、注意してください。
このような分析を行って、自社の生産性はどこがよくなっていて、どこが低くなっているかを知ってこそ、打ち手が決まってきます。
生産性が高くなっている部分はさらに高くするための手を打ち、低くなっている部分はこれを食い止め、上昇に転じるための方策を考える。
自社の生産性分析で、常に状況を把握することがとても重要です。
まとめ
会社が持っている資源は有限。その資源をどのように有効に使うかということが、経営者の重要な意思決定のひとつである。
自社の資源が本当に有効に利用されているか?を常にチェックするために、生産性の測定は必須である。
生産性指標を使って、自社の生産性を測定しよう。