債務償還年数とは?金融機関の視点や計算方法をわかりやすく解説

金融機関から借入をする場合、経営者の多くは、「赤字か?黒字か?」に意識がいっていますが、それだけではうまくいきません。他にも重要な指標があります。そのひとつが、「債務償還年数」です。

 

債務償還年数とは?

債務償還年数とは、借入を返済(完済)するまでに必要となる年数のことです。要するに、「何年で借入を返済できるか?」の見込みです。
金融機関が融資を行う際、この債務償還年数にもとづき、「何年で借入を返済できるか?」を判定し、「返済能力」を測ります。

債務償還年数が長いと…リスクが高い
債務償還年数が短いと…リスクが低い、優良先と判定されます。

ここで注意してほしいのは、借入を実際に返済する期間ではないということ。あくまでも「返済能力」を測る指標です。

このように金融機関が融資を判断する基準となるものですので、経営者は自社の現状をしっかり把握する必要があります。金融機関は、あなたの会社の債務償還年数を必ずチェックしています。そして、その数字から融資を継続するか否かを判断しています。
ですから、金融機関とやりとりする際にも、この視点を持って話をすることが重要です。
逆に、債務償還年数を把握せずに経営をしていると、金融機関と話ができないどころか、必要な時に融資を受けられず、窮地に陥ってしまう恐れがあります。
そうならないために、今日から、債務償還年数を意識した経営を行いましょう。

債務償還年数の計算方法

債務償還年数は、いくつかの計算方法があります。

一般的な計算方法

一般的には、次のように計算します。

債務償還年数=借入合計÷(経常利益×60%+減価償却費)

※法人税等の税率を40%として計算
※経常利益×(1-法人税等)で「税引後経常利益」を算出

「借入合計」を有利子負債とも言います。
「経常利益×60%+減価償却費」を簡易キャッシュフローとも言います。
減価償却費を足しているのは、減価償却費が支出を伴わない費用であるので足し戻しています。

この計算式から、借入が多いほど債務償還年数は長くなり、借入が少ないほど債務償還年数は短くなります。また、簡易キャッシュフローが多いほど債務償還年数は短くなり、簡易キャッシュフローが少ないほど債務償還年数は長くなります。

運転資金を考慮した計算方法

次に、運転資金を考慮する計算方法があります。

債務償還年数=(借入合計-運転資金)÷(経常利益×60%+減価償却費)

会社の経営に欠かせない運転資金は常時必要であり、実質的には借りたままであるという考えで、借入合計から差し引きます。特に運転資金が大きくなる業種は、この方法で計算します。

現預金まで考慮した計算方法

さらに、現預金まで考慮した計算方法があります。

債務償還年数=(借入合計-運転資金現預金)÷(経常利益×60%+減価償却費)

借入合計から、運転資金に加えて現預金も差し引きます。現預金があるということは、その分いつでも返済が可能であるという考えです。

3つの計算式から、自社に合うものを選びましょう。同じ計算式で継続的にモニタリングすることが大事です。

債務償還年数の目安

債務償還年数が長くなれば長くなるほど、金融機関はリスクが高いと判断し、マイナスの評価となります。
一般的な目安として、「10年以内」であれば健全な財務状態であると見なされます。
ただし、これはあくまでも目安です。業種や規模によって違います。例えば、製造業の場合、工場や設備等に対して大規模な設備投資が必要なので、10年を超えて15〜20年になることがあります。
また、金融機関ごとでも基準が異なります。

それでは、あなたの会社がめざすべき目標は、どうしたらいいでしょうか?
まずは、「10年以内」を基準としましょう。
そして、そこから目標の債務償還年数を短くしていく努力をするのがいいでしょう。

経営改善、事業再生の場合はより重要

赤字が続いて厳しい経営状況に陥った場合、いわゆる経営改善や事業再生が必要な会社において、この債務償還年数はより重要な指標となります。

私的整理手続きによって再生計画を成立させるために、対象債権者であるすべての金融機関から同意を得なければなりません。この時、金融機関としての判断の物差しとなるのが、「実質債務超過解消年数」と「債務償還年数」の2つの基準です。これらの基準により、各金融機関は債務者区分の判定を行なっています。

詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

→「事業再生計画を成立させるための条件とは?金融機関から同意を得られるための条件を解説!

債務償還年数の改善方法

債務償還年数を改善するにはどうしたらいいのでしょうか?

まず改善策を考える前に、なぜ債務償還年数が悪化したのか?その原因をつかむことが大切です。

悪化した原因をつかむ

債務償還年数が悪化するのは、次の2つの事象が起こった時です。
ひとつは、借入が過大に膨らんだため(過剰債務)。
ひとつは、利益が少ないため(低収益性)。
「なぜ借入が膨らんだのか?」「なぜ利益が少ないのか?」その原因を分析します。
その上で、債務償還年数をどうやって改善していったらいいのか。方法として、主に3つあります。ひとつずつ説明していきます。

利益を最大化する

債務償還年数を改善する一番の方法は、利益を最大化することです。

事業環境にいかに適合していくか。
自社の事業の組み合わせをどう最適化していくか。
経営資源を確保して、浪費を防止し、どう最適に配分していくか。
お客様の声に耳を傾け、競合他社に対し自社の優位性をどう強化していくか。

これらを常に考え、日々利益最大化に努めていきます。

借入金の残高を減らす

借入金を減らすことで、債務償還年数が改善されます。いわゆる繰上げ返済です。
これにより、利息負担が軽減されるメリットもあります。
しかし、無理して返済しすぎて、手元資金が不足して、経営が成り立たなくなっては、意味がありません。
「その時は、また融資をしてもらえばいい」と安易に思っていても、状況によって、融資を受けられないこともあります。
債務償還年数の改善よりも、事業経営の継続が優先と考えてください。
また、繰上げ返済は、金融機関にとってもあまり歓迎されません。なぜなら、収入源である利息が減るからです。
無理なくできる範囲で、例えば、遊休不動産などの処分によりキャッシュが一時的にできたので繰上げ返済を検討するといったスタンスでいいでしょう。手元資金はきちんと確保した上で行いましょう。

減価償却費を計上する

これはテクニック的な要素が強いのですが、減価償却費の計上でも債務償還年数は変わります。
経費計上にするか、資産計上にするか?の判断の違いです。
資産計上にして減価償却費にすると、債務償還年数は改善されます。
減価償却費については、細かい決まりがありますので、顧問税理士の先生と打ち合わせしながら検討してください。

まとめ

債務償還年数は、金融機関の視点から自社を判断できる指標です。「10年以内」を目安にしましょう。

債務償還年数に余裕があれば、新たな融資を引き出せるので、次なる事業、経営計画が立てやすくなります。

債務償還年数を改善する一番の方法は、利益の最大化です。

 

最後に、債務償還年数が全てではありません。

あくまでも金融機関の判断基準の一つであり、他の要素もあります。それを理解した上で、自社の現状をきちんと把握して経営していきましょう。

最も大切なことは、「経営者が自社の債務償還年数をきちんと把握して経営すること」です。

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